懐かしいね1/1ﾍﾟｰｼﾞ目
ほたる
君と夏に見た、
ほたる
綺麗だね
そう言って笑みを浮かべた横顔が今はとても懐かしく感じて
なんだか泣きたくなった
戻れない思いと
駆け巡る感情
それが同時に重なって、
僕は泣きたくなった
ほたるは僕に近づいてきた
ふよふよと移動する姿が愛らしくて
自然と手が伸びたんだ
だけどほたるには届かない
指先をいっぱいいっぱい伸ばしてみたけれど
温かい淡い光には届かない
懐かしいな
前にも一度だけ、
届かないことがあったね
僕は必死になって
追いかけて、
追いかけて
掴もうとするけど届かなかった
何故なのかはわかってる
僕が弱かったからだ
必死になっていた間に
あれこれ考えてしまっていた
だから届かなかった
そうでしょう？
だから君は逃げたんだ
弱い僕に捕まりたくなかったんだ
君だけを想う僕なら、
君に届いたかもしれないね
ほたるは逃げていった
開いている窓から
ひんやりとした白い世界へ行ってしまった
僕は動けない
ここから、ずっと動けずにいる
ひとりで見ている冬のほたると
ふたりで見た夏のほたる
僕はひとりが好きだから
今ひとりでほたるを見ている
なんて、
やっぱり僕は弱いのかな
あのほたるは君に似ている
君がほたるに似ていたのかもしれない
あったかくて
冷たくて
だから目が離せないのかな
僕は立ち上がった
いない君を追いかけるために
あの光が必要なんだ
綺麗だね
懐かしい思いはここに置いておこう
いつか取りに来るから
白い世界に足を入れて
途中から新しい思いをここに置きたいんだ
僕はまた、
ほたるに
君に
手を伸ばす
今よりずっと
温かい思いを求めて
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