ACNB*Days

2010年12月19日(日)
【「 last snow 」】
「 last snow 」


とある日のこと。
雪がしんしんと降り続く静かな夜に、1人または1つ尋ねてきた者がおりました。
「お祈りですか?」
「…寂しかったので…つい……」
「いいんですよ。それでは一緒に祈りましょう。」

祈りが終わり、それはふらふらと力なく椅子にもたれました。
まるで人形のように置かれるがままにそこへ座っていました。

教会には色んな方が尋ねてきます。
老若男女問わず、全ての想いを受けとめてきました。
最終手段の場に選ばれることも少なくはなかったのですが、それでも、人が「信じる」という素晴らしい心がある限り決してなくなることはない場所でした。
ですが、ここが最後の1つ。
世界の終わり、と呟くおばあさんのお祈りしている手が静かに震えている光景から世の中を知らせてくれるのです。

「神の加護があらんことを…」
おばあさんは静かに、白く暗い夜へと帰っていきました。
この教会には神父様とそれだけになりました。
すると、今まで、ずっと、押し黙ったままのそれが神父様へ話しかけました。
「神父様。人は信じてきました。心があるのです。人には心がある、と信じてきました。でも…それがこの結末を迎えたのではないのですか?」
「なぜ、そう思われるのですか?」
「はい。わたしは…信じる心を許さない世の中であるべきなんだと思ってました。だってそのほうが楽でしょう?子どもたちがおばけを怖がるのといっしょで、やっぱり………目に見えないものは怖いんです。ですが、現実がそうなってみると…辛いんです。ただ、辛いのです。」
「祈りましょう。神は私たちをきっと見てくれて…います。こう…して祈り…続けることで…か…み………は……」

神父様はそれきり動かなくなりました。
必要とされなくなったからです。
「…もう終わりね。」
それが力なく立ち上がり神父様の視線の先へ目をやると、聖母マリアがただ白くしろくそこにあるのでした。

それが教会をあとにし、残り、まるで人形のように置かれたままになった神父様。
この白い夜が、彼と呼ばれた最後の1つの、儚くも綺麗な最期となったのです。
すると、奇跡が起こりました。
神父様が泣いたのです。
涙がこぼれたのです。

決して流れることのない涙が。



08:53
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